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6話 期待と緊張が交差する夜

Penulis: みみっく
last update Terakhir Diperbarui: 2025-08-27 02:34:08

「……ってことは、あ、あぁ……一人暮らしってのも嘘で両親と一緒な感じ?」

 ヒナが不安げに、そして少し残念そうに尋ねてきた。その視線が、俺の内心を見透かすように感じられた。

 「それは、ホント……。俺は一人暮らしだよ。二人っきりになっちゃうけど……どうする?」

 俺は改めて、ヒナの顔を見つめて問いかけた。マンションの街灯の下、夜風がひゅうと吹き抜ける。

「ユウくんのおへやに~レッツゴー!」

 ヒナは俺の腕を掴んだまま、何の迷いもなく満面の笑みで宣言した。その無邪気な笑顔に、俺の心臓はまたしても大きく跳ね上がる。

「慣れてないとか、男子と二人きりになるのは避けてるって言ってたよね!? 随分と……積極的だけど?」

 俺は思わず、ツッコミを入れてしまった。さっきまでの、はにかんだような表情はどこへやら。今のヒナは、まるで小動物が獲物を見つけたかのように、キラキラと目を輝かせている。

「んー? それはねーえへへ、ユウくんが……初恋の男子に似てるからー♪ なんか、一緒にいると落ち着くって言うか、ユウくんと一緒にいると居心地が良いんだよっ♪」

 ヒナは恥ずかしそうに顔を赤らめながら、俺の腕に抱きついてきた。その言葉と仕草に、俺の胸は高鳴る。

 大学に入ってからというもの、ユウマは男友達でさえ自宅に招いたことがなかった。そんな俺にとって、初めて家に入れる相手が、まさかの女の子、それもこんなにも可愛らしいヒナだという事実に、俺は心の中で深くため息をついた。まるで腹を括るかのように、俺は意を決し、ヒナを部屋へと案内した。

 俺が「こっち」と静かに促すと、ヒナは俺のシャツの袖をちょん、と可愛らしくつまんだ。「ちゃんと案内してね?」そう言ってくすりと笑う彼女の無邪気な仕草に、鼓動がまた一つ、高鳴るのを感じた。

 やはり二人きりだと緊張するのだろうか、ヒナは俯きがちで、落ち着かない様子だった。その表情からは、かすかな不安が滲み出ているように見えた。

「女の子ひとりで男の子の家に行くなんて……えへへ、ちょっとだけドキドキしてるかも」

 ヒナは、そう小さく呟いた。普段の彼女は、男子との交流にも慣れているように見えたが、その言葉と表情は、どうにも慣れていない様子を窺わせた。その事実になぜか、ホッと胸を撫で下ろし、安心感を覚えた。

 エントランスを抜け、二人はエレベーターに乗り込んだ。ドアが閉まるその瞬間、ヒナはユウマの腕の内側にそっと寄り添った。「これで逃げられなくなったねぇ~♪」と、彼女は悪戯っぽく、しかしどこか甘えたような声でふざけて言う。ユウマは苦笑を浮かべたが、その声には微かな動揺が混じっていた。ヒナの柔らかな身体の感触が、シャツ一枚隔てた腕に、熱となってじんわりと伝わってくる。

 エレベーターの鏡に映る自分を見ながら、ヒナは指先で前髪を少しだけ整えた。「このままで変じゃないよね? ユウくんの部屋って、なんか特別な場所な気がするから……」そうぽつりと呟く彼女の声には、特別な緊張と、抑えきれないときめきが滲み出ていた。ユウマは、彼女のそんな繊細な感情の揺れを感じ取り、自分の胸の中にも、静かな高揚感が広がっていくのを感じた。密室であるエレベーターの狭い空間に、二人の呼吸だけが、そっと響く。

 その静けさに耐えきれなくなったのだろうか、ヒナは突然、「ねぇねぇ、このマンションってペット可?」と話題を変えた。唐突な質問に、ユウマは思わず噴き出しそうになる。「いや……知らない」と答えると、二人の間に、張り詰めていた空気がふっと和らぎ、小さな笑い声が響いた。

 目的のフロアに着き、ユウマが歩みを止めた場所。ヒナは壁に掲げられた部屋番号を指差し、「あ、ここがユウくんの秘密基地だ〜!」と、まるで宝物を見つけたかのように、楽しげな声をあげた。その無邪気な表現に、ユウマは照れくさそうに視線をそらす。耳の裏まで熱くなるのを感じた。

 ドアの前に立つと、ヒナは少し背伸びをしながら、「どんな部屋なのかな~。わくわくしてきた……」と、期待に満ちた声で呟いた。両手を後ろで組み、足元でゆらゆらと重心を揺らす。ユウマが鍵を差し込んで回すカチャリ、という音に合わせて、「入ったら靴、ちゃんと揃えて置くね!」と、とびきりの笑顔を見せた。その笑顔は、ユウマの緊張を少しだけ和らげる。

 そしてドアが開いた瞬間――。ひんやりとした、外とは全く異なる空気が、ふたりの間に流れ込んできた。それはまるで、これから始まる「特別な時間」の予兆のように、ユウマの胸をざわつかせた。

 彼女が俺の部屋に初めて足を踏み入れた瞬間、胸の奥で微かな緊張が走った。いつもなら「お邪魔しまーす!」と元気よく飛び込んでくるヒナが、今日は少しだけ、足元がおぼつかないように見えた。俺のプライベートな空間は、普段の俺を知っているヒナにとって、どう映るんだろうか。部屋に漂う、洗い立てのシーツと俺の香水の混じった匂いを、ヒナがどう感じるのか、密かに気になった。

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